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岡山家庭裁判所津山支部 昭和45年(少ハ)1号 決定

少年 C・O(昭二六・五・九生)

主文

一  少年を満二〇歳に達するまで中等少年院に戻して収容する。

二  窃盗・同未遂・道路交通法違反保護事件については少年を保護処分に付さない。

理由

一  戻し収容申請の理由

中国地方更生保護委員会から、再度少年を少年院に戻し収容すべき旨の決定の申請がなされ、その理由は別紙一、記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

そこで、審究するに、少年の陳述ならびに本件関係記録によれば次のような事実が認められる。すなわち、

少年は、昭和四四年三月一〇日、岡山家庭裁判所津山支部において、恐喝・同未遂・窃盗・銃砲刀剣類所持等取締法違反保護事件により中等少年院送致の決定を受けて美保少年院に収容され、その後昭和四五年九月二一日、同委員会の許可決定により同少年院を仮退院し、爾来岡山保護観察所の保護観察を受けるに至つたものであること。仮退院に際し、同委員会から法定遵守事項のほか、別紙二、記載のとおりの特別遵守事項が定められたこと。仮退院直後の環境調整によつて、当初就職が決定していた○○県久米郡○○町○○所在の○○鉄工所には自転車通勤にかなりの時間を要すること等のさしたる理由もないまま就職せず、担当保護司、保護観察官によつて積極的、意欲的な指導、援護が施されたのに、かえつてこれを避けてその指導に服しようとせず、無為徒食の無気力な生活に明け暮れていたこと。その間、パチンコ、飲酒等の遊興に耽り、暴力団関係者と目される保護観察中の不良徒輩数人と誘われるまま連日に亘つて相当親密な交際を続け、ために日毎に勤労意欲が減弱、消失して、これが被影響性の高度な性格傾向を有する少年の生活行動全体を大きく規定しつつあつたこと。このようにして、保護観察は極めて不完全、不充分な方法でしか行い得ず、すでに前記遵守事項に対する重大な背反が明らかになつた段階で、さらに少年は別紙三、記載のとおり窃盗・同未遂・道路交通法違反事件を敢行したものであること。

以上の諸事情に、岡山少年鑑別所作成の鑑別結果通知書によつて示されている少年の知能、性格特性、問題点の分析結果等を総合して考慮すると、少年に対しては厳格な規律ある生活態度を培い、積極的な勤労意欲と社会適応性を涵養することこそ最も緊要の事理に属すると痛感されるのであつて、そのためには、少年を中等少年院に戻して収容し、矯正教育を受けさせるよりほかに最良の方途を見出し難いと考えられる。幸い少年には、一応深い悔悟と反省の情が認められ、再起の決意も窺われるので、戻し収容の期間を満二〇歳に達するまでとし、犯罪者予防更生法第四三条第一項に則り主文第一項のとおり決定する。

なお、本件保護事件は戻し収容申請事件と併合審理し、すでに後者の理由にもなつているところであるから、もはや保護処分の必要性は認められないので、主文第二項のとおり決定する。

(裁判官 大藤敏)

別紙一

戻し収容申請の理由

少年は、昭和四四年三月一〇日岡山家庭裁判所津山支部において、窃盗、恐喝、同未遂および銃砲刀剣類所持等取締法違反の行為により中等少年院送致の決定を受け、美保少年院に収容されていたところ、当地方更生保護委員会第二部の許可決定により、昭和四五年九月二一日同少年院を仮退院し、翌二二日担当保護司同伴のうえ岡山保護観察所に出頭してその保護観察下に入るとともに、仮退院となつた当日、指定帰住地・岡山県津山市○○×××、○元○次郎方(父)C・Tのもとに帰住、以来、同保護観察所の保護観察下にあるが、

一 美保少年院収容中、本人の希望で熔接工として就職決定していた岡山県久米郡○○町○○所在の○○鉄工所には自宅より自転車で約二〇分を要することを理由に就職を拒み、以後も労働意欲なく、保護観察移行後約三月に及ぶ今日まで就労したのは僅か四日間に過ぎず、この間、○原こと○永○ら不良徒輩と日夜行動をともにし、パチンコ遊び、飲酒、喫茶店遊びなどに耽つている。

二 右一、の期間中、担当保護司による再三の就業督励に応じないばかりか昭和四五年一〇月二〇日岡山保護観察所呼出、出頭による担当保護観察官の就業指導および不良交遊との絶縁にも応じていない。

三 昭和四五年一一月初旬の午前一〇時頃、岡山県津山市○○町○○番地・株式会社(○ル○シ百貨店」内において男物ズボン一本時価六、五〇〇円相当を窃取し、

四 昭和四五年一二月八日午前一時四〇分頃、岡山県津山市△△町○丁目○○の○・有限会社旅館「○岐」において東芝一二型テレビ一台時価一〇、〇〇〇円相当を窃取するため廊下まで持出したが、被害者に発見され未遂、他にダンプカーの無免許運転一件を含め右三、四、の非行を本人は認めており、現在岡山家庭裁判所津山支部に事件係属中である。

以上の事実は、昭和四五年一二月一八日付け岡山保護観察所長提出の戻し収容申請書ならびに添付の関係資料により明らかである。

前記一、は、犯罪者予防更生法第三四条第二項第一号後段、同第三号ならびに特別遵守事項「四、熔接の仕事に落ちついてはげみ、技術を磨くこと」「五、盛り場をはいかいし、パチンコ店へ出入しないこと」「六、特に友人を選んでつきあうこと」に、二、は、特別遵守事項「三、進んで保護観察官、保護司の助言指導を受けいれること」に、三、四、は、前同法第三四条第二項第二号の各違反に該当する行為である。

少年の仮退院後の行状については、正当の理由がないにもかかわらず定職に従事せず、全く勤労意欲に欠け、且つ保護観察を行なう者の指導に従おうとせず、もつぱら不良者と行動を密にして放縦な生活に終始し、果ては、刑罰法令に触れる行為を惹起するに至つては、一年六月に及ぶ矯正教育を受けてもなお、入院前指摘された社会不適応性格が改善されているとは認められず、このまま社会内処遇を継続することは、さらに次の非行の発現を持つとさえ言いえる。加うるに、保護者は、両親とも道義性に欠け、少年に対する保護能力は皆無に等しい。

以上、諸事情を総合判断すると、少年を再度少年院に戻し、矯正教育を施して勤労意欲の醸成ならびに規律ある生活習慣を身につけさせることが少年自身のためにも必要と認め、犯罪者予防更生法第四三条第一項の規定により本件申請に及ぶものである。

別紙二

特別遵守事項

一 昭和四五年九月二一日までに岡山県津山市○○×××、○元○次郎方(父)C・Tの許に帰住すること。

二 昭和四五年九月二二日までに岡山保護観察所に出頭し、その保護観察下に入ること。

三 進んで保護観察官、保護司の助言指導を受け入れること。

四 熔接の仕事に落ちついてはげみ、技術を磨くこと。

五 盛り場をはいかいし、パチンコ店へ出入しないこと。

六 特に友人を選んでつき合うこと。

別紙三

一 昭和四五年少第七一七号窃盗・同未遂保護事件

少年は、

(一) 昭和四五年一一月初めごろ午前一〇時ごろ、津山市○○町○○株式会社○ル○シ百貨店内で、同店代表取締役○色○親管理にかかる男物ズボン一本(時価六、五〇〇円相当)を窃取した、

(二) 同年一二月八日午前一時四〇分ごろ、同市△△町○丁目○○の○有限会社旅館「○岐」で、同旅館代表取締役○藤○弘管理にかかる東芝一二型テレビ一台(時価一万円相当)を窃取するため廊下へ持出したが、家人に発見されてその目的を遂げなかつた、

ものである。

二 昭和四五年少第二、七三七号道路交通法違反保護事件

少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四五年一一月二〇日午前三時四〇分ごろ、津山市△△×××番地先国道において、大型貨物自動車を運転したものである。

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